昨日、ヴォーカルの生徒さんのレッスンをしていて思い出した、とても好きな一節があります。
ピアノの先生、江﨑光世さんと、バジル・クリッツァーさん、岩井俊憲さんの共著、『あなたの想いが届く 愛のピアノレッスン』という本のなかで紹介されている、当時小学校4年生だった生徒さんの文章です。
練習することも、反省することも大切だけれど、本番のときに一番大切なことは、聴いてくださる方たちに心をこめて演奏すること。
いつも、この生徒さんの文章に教えられる気がします。
しっぱいの宝箱
わたしの宝物は、いっぱいあります。その中でも大事な物は、しっぱいの宝箱です。
しっぱいの宝箱は、次のステップにいけるようにここがだめだったから今度はなおそ
うねと、ふりかえられるための物だと思います。
わたしはピアノのコンクールが大すきです。どうしてかというと、自分のいけないと
ころやよいところがわかるし、がんばったことを発表するからです。
わたしの今年のしっぱいの宝をちょっとしょうかいします。コンクールでソナチネの
さい後の音階の所でとまってしまったことです。指番号をまちがえたのがげんいんで
す。先生に注意されたところです。とてもとてもくやしかったです。たくさんなきま
した。そして、たくさんはんせいをしました。音読みの時、正しく正かくに楽ふを読
むことの大切さを、知りました。先生がわたしのしっぱいを聞いて、
「小さいうちにいっぱいしっぱいをしておくと、大きくなったらそのしっぱいが力に
なるから」
と教えてくれました。わたしはしっぱいの宝箱を心の中に作りました。そしてその中
にしっぱいした宝も入れました。先生が、
「自分がしっぱいして悲しい思いをした時、人の気持ちもわかるようになるよ」と教
えてくれました。たくさん励ましてくれました。
しっぱいの宝箱に入っている宝はそれぞれ形がちがいます。大きなしっぱいだったら
大きな形、小さなしっぱいだったら小さな形、別の音をひいてしまったらへんな形の
宝です。わたしはどれも大事です。でも、わたしは、コンクールの時しっぱいの宝
箱を、家に置いていきます。なぜかというと、この前まちがえたから、あそこはぜっ
たいまちがえないようにしようと思い、そこに気をとられてしまうからです。そう思
うより、わたしの音楽を聞いてくださる人に、心をこめてひいたほうがいいからで
す。先生が、
「あなたの音楽を聞いてくださる人に、自分の気持ちが伝わることが一番大事ですよ」
と教えてくれました。
これからも心の中のしっぱいの宝箱を大事にして、かなしい気持ちや、うれしい気持
ちや、くしかった気持ちを自分の音楽にしてあらわして、たくさんの曲にちょうせん
してみたいです(原文ママ)
(江﨑光世・バジル・クリッツァ―・岩井俊憲『あなたの想いがとどく愛のピアノレ
ッスン』学研パブリッシング、2015年、pp.103-104)