「先生、この曲のタイトル、なんで”タランチュラ(毒蜘蛛)”じゃなくて、”タランテラ”なん?」
先週のレッスンにて、ブルクミュラー20番、「タランテラ」(脚注1)を練習している生徒さんからの質問。
ブルクミュラーというのは音楽家の名前(脚注2)なのですが、彼の作曲したピアノのための小品のうち、25曲を集めた曲集は、こどものための練習曲として広く親しまれています。
その20番、タランテラは、8分の6拍子のすこし哀愁を帯びたメロディ―の合間に、晴れ間のように明るい短い場面がはさまれている曲です。
「うーん。フランス語読みだからかな~?調べとくね。」
とお返事して、すこし調べてみたところ、興味深い事実を知りました。
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【タランテラ(Tarantella/伊)】
多くは6/8拍子で、急速なテンポのナポリの舞曲。名前の由来はイタリア南部の地名タラントからという説と、毒蜘蛛のタラントゥーラにかまれた時、この踊りを踊ると治るという伝説からという説がある。ショパンやリストの「タランテラ」が有名。
(意美音:http://imion.jp/i/ 2020年6月29日取得)
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タランテラというのは舞曲の名前だったのですね。
踊りの様子はこちらで観ることができます。
そして、衝撃的だったのは、15世紀から16世紀にイタリアで流行したといわれる"tarantismタランチズム”という舞踏病に由来するという説です。
舞踏病??
きちんと文献を読んだわけではないので、浅い知識ですが、すこし調べてみると、泣いたり、踊ったり、笑ったり、叫んだりする、集団心因性疾患だとみなされているようです。
何百人という人々が踊り狂い、飲まず食べずで餓死した人もいたというような記述もありました。
何気ない生徒さんの質問のおかげで、ヨーロッパの歴史の一部を垣間見た気がしたのでした。。
参考までに、ほかの作曲家のタランテラもはりつけておきます。
ほかにも、メンデルスゾーン、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー、サンサーンスなど、たくさんの作曲家がタランテラに魅了され、作曲したようです。
五嶋みどりさんの弾く、サラサーテのタランテラがとても好きです。
追記:後日、知り合いのかたが、ハーバート・ノーマンという歴史学者かつ外交官だった人が『クリオの顔』という随想集のなかで、日本のええじゃないか運動と舞踏病を比較した考察をされていることを教えてくださいました。
脚注1:Burgmüller, 25 Etudes faciles et progressives, conposées et doigtées expressément pour l'étendue des petites mains La tarentelle, Tarentelle
脚注2:Johann Friedrich Franz Burgmüller(1806~1874)
ドイツ、レーゲンスブルクで、音楽家一家に生まれる。1832年、26歳のときにパリに移り、ピアノの教師として人気を得、ピアノの小品も歓迎される。バレエやオーケストラの曲も作曲したが、名を残すことができず、もっぱら子供用のやさしい曲によって有名になり、今日まで知られている。(「解説」門馬直美『ブルクミュラー・25の練習曲』株式会社河合楽器製作所・出版部、1980)